おやすみ泣き声、さよなら歌姫

もうどのくらい前のことか忘れてしまったが、おそらくわたしがうつ病になって実家に帰省してからのことのように思う。その子はツイキャスで昼夜いつになく弾き語りをしていた。声が大層かわいらしく、ギターも上手かったので、わたしは初めてその子の歌声を聞いて以来、数年間もの間ファンだった。寝付けない夜にライブ配信の通知が届けば喜んで聴きに行ったし、退屈な昼間通知が鳴れば嬉しかった。彼女のおかげで知った曲、改めて好きになった曲、時にはリクエストなんかもした。母親にあやされて寝付く子供のように、寝落ちることもたびたびだった。

そんな彼女がある日Twitterでこう言った。

「配信はもうやりません」

事情はよくあるもので、リアルが忙しくなったからだそうだ。わたしは彼女のファンの一人に過ぎないから、その言葉をただただ受け入れるしかなかった。最後にせめてものの感謝の気持ちだと思い、TwitterでDMを送った。

彼女がネットの海でそのきれいな歌声を響かせなくなってからまだ5ヶ月なのに、わたしはもう一度、いやもう何度だってその声を聞きたいと思ってしまう。大好きなものを失うのは誰だって怖い。わたしは彼女のようにうまくは歌えないけれど、彼女がいたことはけして忘れたくはないから彼女の歌っていた曲を今日も聴くんだよ。あの時最後だってわかっていたら、クリープハイプの「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」をリクエストしていたんじゃないのかな。

なお、「しーた」という名前の由来はジブリではなく、数学で角度を表す記号のシータとのこと。

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