白はモノクロの中でも白いまま

ここは争いも諍いもない平和な世界だから、きっと天国なんだろうとわたしは思った。拘束された両手足も、部屋の窓枠にはめられた鉄格子も、南京錠が内側からかけられた扉も、幾つもの監視カメラも、隠す様子のない盗聴器も、甲斐甲斐しくわたしの世話をするココくんも、全部全部わたしに必要なもの。ココくんがいたら他に何も要らない。だからきっとここは天国に違いなかった。

ベッドの上でわたしが目を覚ますと、丁度目の前に彼の顔があって、瞬間嬉しくなる。わたしが目覚めるより先に起きていた様子で、ココくんの指がわたしの髪を優しく撫でて、そっと唇を寄せられる。軽く触れるだけのキスだというのにわたしは思わずクラクラする。なにかの薬のようだと思う。ひょっとすると、三食彼が口に運んでくれる食事の中に惚れ薬でも入っているのかもしれない。それでもよかった。わたしは今この瞬間、涙が出るくらいに幸せだから。いっそ殺してほしいくらい。

いつから?出会った時から。どうして?彼はもう大事な人を喪いたくないから。彼は誰?梵天幹部、九井一。だからこの天国めいた軟禁は仕方がないのだ。全部わたしのためであり、彼のためだった。

「ねえ、ココくん愛してる」

静かな部屋でわたしがそう言うと、ココくんは少しだけ目元を細め、口元を緩めて満足そうに笑ってくれる。父親が子供をあやすように。マリア像の微笑みのように。願わくばこの平穏が末永く続きますように。神様なんて信じちゃいないけれど、祈るのだ。上下左右隙間なくわたしの写真で埋め尽くされたこの部屋の中で、どうか彼と添い遂げられるようにと。