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プライバシーは舞台裏に

天国の箱庭の中、ココくんはなにやら忙しそうにパソコンを叩いていた。ココくんこと九井一はどうやらお金作りの天才らしかった。ここに居れば必要なものはすべてココくんが揃えてくれたし、わたしにはお金の価値なんて見出だせなかったけれど。それでもココ…

白はモノクロの中でも白いまま

ここは争いも諍いもない平和な世界だから、きっと天国なんだろうとわたしは思った。拘束された両手足も、部屋の窓枠にはめられた鉄格子も、南京錠が内側からかけられた扉も、幾つもの監視カメラも、隠す様子のない盗聴器も、甲斐甲斐しくわたしの世話をする…

ズタズタのストロー、私たちの心電図

いつも追いかけるのはわたしの方で、ココくんはわたしのことなんてなんとも思ってないんだと思ってた。それはもうれっきとした事実であるので、今更傷付いたりしないけれど、少し寂しくなる瞬間がある。テレビの中で仲睦まじいカップルが映る時、白いウェデ…

撮影裏話

『はーい!お二人さん、視線こちらにくださいー!』 最悪だ。人生で最もツイてない日が今日なのかもしれない。とオレは思った。 「ココくんどうしたの?似合ってるよ?かっこいいよ?最高だよ?さすがわたしのココくんだよ?」 「あのなぁ…なんだ?この格好…

弔いは黒猫と

夢を見た。赤音さんとデートをする夢。図書館で二人きり。見慣れたいつもの風景だったが隣にいるのが赤音さんだったから、どんな場所に行くよりも幸せだと思った。赤音さんの姿は約束をしたあの日のままだったが、オレは小学生ではなく現在の姿で、すっかり…

やさしい悪魔

飼っていた愛猫が死んだ。猫は死を悟ると、飼い主の目の届かない場所に行くなんて言うけれど、この子、クリスはそんな素振り少しも見せずにまるで眠るように、息を引き取った。7年間。7年間だ。数字にするとまるで無機質な記号のようだが、確かに温もりあ…

睫毛の奥のブラックホール

今年の夏は雨季の延長線にあり、晴れる日が少なかったように思う。湿った空気は全身に重たくのしかかり、そこには無限の倦怠感があった。雨の音は嫌いではなかったが、こう毎日降られると洗濯物が乾かないし、段々と疎ましく思えてくる。 オレはと言うと、元…

なら電気を消して

ココくんのことが大好き。 過去のことを忘れられないその重さも、舌を出すその仕草も、普段は少ない口数も、疲れた時だけに漏れる、わたしだけが聞ける泣き言も、すべて好き。貴方を構成するもの全てがわたしを生かすし、時に殺しもする。 ココくんもとい九…

不完全少女

☆画像のイメージSSです☆ もともと記念日なんてどうでもいい性だったが、記念日がどうでもいいのではなく、相手のことがどうでもいいのだと気付いたのがつい最近。九井一と出会ってから今日で一年が経った。記念日でもお祝いをするような二人でもないので、わ…

ヒーローになりたかった

☆みちゃこの書いてくれたSSに対するアンサーSS(?)です。 赤音さんのことは吹っ切ったつもりだった。少なくともオレの中では。 それでも金を集めるのを辞められなかったのは、オレの属する世界でそれが求められていたこと、オレの性分に合っていたことも否定…

白昼夢は謎を喚ぶ

「先生、次の講義で使う資料をお持ちしました」 「ああ。悪かった。丁度手の空いている者が他に居なくてな。なんせ今は盆休みだ。多くの生徒は帰省しているか、そうでないものは補講を受けている。そのどちらでもない者となれば、思い当たる人物は弟子のグレ…

とある夏の日

人っ子一人いない炎天下。敢えて影を避けるようにして、チリチリと水分を揮発する真昼の太陽の真下に、彼はいた。 なにをしているのかと思えば、生きているのかそうでないのか。黒塗りの学ランに身を包み、ひっくり返った蝉を誰よりも真剣に、一心不乱に木の…

ダラク

「わたし、貴方のことが大嫌い」 そう、眉根を寄せる彼女の髪を、彼女の嫌うこの俺が洗うというのはさぞかし可笑しなことだろう。 如何にも水攻めに適した防水仕様の拷問部屋(芸のない言い方をすれば浴室だが)で、バスタブに半身を浸からせ、小一時間ほど…

魔法使いとさよなら

ボクは、女が嫌いだ。 女が嫌いであることと釣り合いをとるように、男が好きというわけでもない。 女も男も別け隔てなく、人間という生き物の大半が嫌いだったし、その中にはこのボク、ウェイバー・ベルベット自身も例に漏れず含まれていたりする。ボクは自…

教会の地下室には悪魔が眠っている。

教会の地下室には悪魔が眠っている。 そんな噂が街を彷徨うようになったのは、いつの頃からか。 地獄へと通じている地下室から夜な夜な聞こえる呻き声。 奏者のいないパイプオルガンはリズミカルに不協和音を奏で、庭園に咲く鮮やかな薔薇は人の肉から養分を…

夏の亡霊

長らく空き家だったお隣に、住人が越してきた。 性別男性。氏名不明。国籍不明。声・一人称・趣味・年齢・家族構成・恋人の有無・その他一切すべて不明。 褐色の肌に白い髪という異国を想起するに十分な風貌を備えたその人は、大家族で住んだとしても到底部…