不完全少女

☆画像のイメージSSです☆

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もともと記念日なんてどうでもいい性だったが、記念日がどうでもいいのではなく、相手のことがどうでもいいのだと気付いたのがつい最近。九井一と出会ってから今日で一年が経った。記念日でもお祝いをするような二人でもないので、わたしからは口にしなかったが、今朝起きたとき「今日どこか行くか?」となんでもないように、だけどいつもは口にしない台詞を口にしてくれたことがなにより嬉しかった。高級ホテル最上階にだって何日も泊まれたけれど、ココくんと何気ない一日を過ごしたかったから「二人で家にいたい」と答えた。カチャカチャというパソコンのキーボードを叩く音がわたしへの返答だった。

今日一日は家から出ないでココくんにくっついて過ごすことに決めた。彼の背中はまだ年相応の幼さを残す小ささで、わたしよりも細くて、簡単に折れてしまいそうだ。それでも確かに伝わる体温が、彼がきちんと生きていることを知らせてくれる。仕事をする彼の後ろでダラダラ指文字で「かまって」と書くなりしていたら、突然腕を掴まれて首元を噛まれた。それが合図で一度始まったらもう止まらない。ココくんがセックスの時、わたしの名前を呼ぶから簡単に果ててしまう。赤音さんの名前でもイヌピーの名前でもない。わたしの名前。

先日のことだ。一生ココくんのことが好きだから「九井一」という名前を手首に彫ろうと思ったら、呆れるを通り越して心配そうな声色で「頼むからやめてくれ」と懇願されてしまった。翌日、確かに手首に「九井一」と刺青を入れてるの意味がわからないし、止めてくれてよかったと気付く。貴方のことが絡むとどうしてこんなに知能が落ちてしまうんだろう。毎晩のようにしていたODもリストカットも貴方と出会ってからは辞めた。辛いときは何度も名前を呼んで抱きしめてくれるし、わたしよりも一回り以上大きな手のひらで指を絡めてくれるその仕草が好きで好きで好きだから、九井一以外の一切他のことがどうでもよくなる。

「ココくん、愛してるよ」

「知ってる」

「ココくんは知らないと思うけど九井一のことを好きな女の子、結構多いんだよ」

「へえ」

どうせ金目当てだろ。彼は言う。はたと視線が合う。わたしは例えココくんが浮気をしていても最後にわたしの元に戻ってきてくれたらそれでいいけれど、今のところそんな素振りはなくて杞憂にすらならなかった。

九井一を構成する全てが好きだったが、眠くてグズるわたしを優しく宥めて添い寝してくれる瞬間が一番好きだ。

「もか。」

「ココくん」

「もかは知らないと思うけど、もかのことを狙ってるやつ、結構多いんだぜ」

「へえ」

意識半分夢の中。とろとろと心地よい声色が耳朶に響く。わたし達一生このままなのかな。ココくんがお爺さんになっても、わたしがおばあさんになっても内容のない会話のやり取りをして、眠くなったら二人でくっついて眠って。それ以上の幸せ、わたしには想像できなかった。

「ココくん、やっぱり愛してる」

返事はなかった。代わりに額にキスされた。そういうらしくないところもなんだかもう彼らしいとすら思えて、馬鹿なわたしの脳みそはやっぱり明日朝イチで「九井一」と刺青を入れてもらおうと思うのだった。